AIの実装は避けて通れない経営課題となった今、真の競争優位を生むには作業効率化にとどまらない、次のステップが必要です。多くの経営者が生成AIツールを導入してきたものの、真の競争優位を生むまでに至ったと実感する経営者は決して多くありません。本セッションでは、モデレーターにNewsPicksの福田啄也氏を迎え、アクセンチュア株式会社の堺勝信氏、株式会社primeNumberの山本健太が、AIドリブン経営を実現するための組織設計、データ基盤整備、人材育成の具体的メソッドなどを解説しました。

登壇者紹介

堺 勝信氏

アクセンチュア株式会社ビジネス コンサルティング本部 データ&AIグループマネジング・ディレクター

27年以上に亘るコンサルティング経験があり、業務改革および業務改革を実現するためのシステムの企画~導入/運用まで一気通貫のプロジェクトを多数経験。2015年以降、AI(人工知能)を活用してのビジネス・システム変革に多数従事。現在、データ & AIグループのAIアーキテクトチームリード 兼 ジェネレーティブAIの日本リード。共著に『生成AI時代の超仕事術大全』『Microsoft Copilot for Microsoft 365活用大全』。その他講演、寄稿多数。

山本 健太

株式会社primeNumber取締役執行役員CIO ( Chief Innovation Officer )

前職にてソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、広告テクノロジー関連の開発に従事。2015年に、代表 田邊と株式会社primeNumberを創業。広告/メディア業界をはじめとした様々な企業に対する開発支援/データ利活用推進の提案/PMを経験。現在はプロダクトマネジメントおよびR&Dを担うイノベーション本部を新設し、CIOとして統括している。

日本企業の業務の44%がAIで大きな影響を受ける可能性がある

セッションの冒頭、堺氏はAIの本質的な位置づけについて語りました。

「ChatGPTのGPTはGenerative Pre-trained Transformerの略ですが、2023年頃にOpenAIが発表した『GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models』という論文では『General Purpose Technology』(汎用技術)とされています。AIはもはや単なるツールではなく、人類の歴史に非常に大きなインパクトを与えるものの一つとして紹介されているのです」(堺氏)

堺氏はアクセンチュアの調査データを示しながら、AIが労働に与える具体的な影響について説明しました。

「このグラフは、日本の業界別に、生成AIの中でも特にLLM(大規模言語モデル)が労働時間にどれだけ影響を与えるかを示したものです。日本平均を見ると、LLMによって大きく自動化される可能性がある業務が25%、大きく強化される可能性がある業務が19%となっており、業界平均で44%がLLMの影響を大きく受ける可能性があります。これは2023年のデータですので、物理的な作業が多い業界においても今後さらに影響が大きくなるでしょう。強化される業務は価値創造につながるため、非常に大きな可能性を秘めていると考えています」(堺氏)

山本もprimeNumberでのAIを活用した業務改善の実感を語りました。

「業務内容が汎用的であるかが重要なキーワードです。ほぼすべての業務プロセス、すべての部署で、あらゆる業務にAIを組み込める箇所があると考えられます。そうなると、ヒト・モノ・カネという経営資源をどう集め、使うかという、採用、組織、投資などあらゆる計画が大きく変わってきます。直近では、弊社を含め各社でAI前提の経営計画策定という考え方をよく聞くようになりました」(山本)

エージェント型AIで再創造する業務プロセス

AIエージェントがどのように業務を変革するか、堺氏は以下のように語ります。

「現在、AIエージェントが登場し、これまで人間が縦割りのシステムやデータの間を行き来して実施していた作業を、かなり代替してくれる状態になっています。それぞれの業務領域に特化したエージェントが出てくると、エージェント間で対話し、適切なタイミングで人が意思決定や最終判断をする世界観が広がっていきます。

例えば、新しいサービスや物品を調達する際、現在は法務のシステムデータにアクセスし、調達のシステムにアクセスして、さらに会計のシステムにアクセスするという作業を人間がインターフェースとして機能しています。しかし、AIエージェントが実現すると、社内で何か実施したいことに対してどのシステムを使用すればよいのかから判断して実行してくれるようになります。自分の“バディ”のような存在として、協働して仕事を進めていけるようになるのです。

今までの自動化では、例外なことが起こった時に人間が対応する必要がありました。しかし、AIにも曖昧な状況の判断や柔軟な反応ができるようになってきたため、自動化の幅も深さも変わってくるでしょう」(堺氏)

AIエージェントの活用に加え、従来の業務をAIに任せるかどうかの境界線は決定的な判断が必要か、非決定的な判断が必要かだと山本は語ります。

「非決定的なものをできるだけAIに任せ、決定的なものに対してはAIを利用してプログラミングを行うなど、切り分けることも必要です。一つひとつの積み上げではありますが、よりインパクトがあるものからAIを活用していくことが重要になるでしょう」(山本)

また、アクセンチュアが提唱する企業全体の再創造(トータル・エンタープライズ・リインベンション)の観点からは、これまでの仕事が変わり、今までメンバーがやっていた業務が無くなることに対して反発が起こるのではないかと議論が発展しました。

「人が取り組んでいた部分の自動化がAIによって進んでいます。そんな中で従来のBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)ではなく、新しいBPR(ビジネスプロセスリインベンション)が必要だと思っています。となると、業務部門、システム部門で分けていた今までの役割を見直すなど、組織における抜本的な見直しが急務です」(堺氏)

さらに、これまでの業務プロセス自体をAIエージェント自体が計画して実行できるように変わってくるため、動的に業務プロセスを組み立てる必要があると堺氏は指摘しました。

そんな中、AIによるデータサイエンティストなどの専門性を持った業務の代用について、山本はマネジメント業務の代替手段となり得る『primeSalesAgent』について語りました。

「弊社内で開発、運営している『primeSalesAgent』は、営業部長のような役割を果たすAIエージェントです。AIで全商談ログを分析しながら、次の商談でどのような点を押さえる必要があるか、営業メンバーに対してヒアリングが不足している部分はどこかなど、スコアリングと適切なティーチングをAI起点で実施します」(山本)

これにより、ミドルマネージャーの業務の低減を実現します。さらにスタートアップのような小規模の企業では、プレイングマネージャーの「プレイングとマネジメントの両立」を実現できるようなサービスにもなっています。

人間にしかできない仕事とは?AI時代の組織設計

AI時代には組織全体を作り直す必要があるという話から、福田氏がprimeNumberでの組織再設計について尋ねると、山本氏は明確な方向性を示しました。

「人間がフォーカスすべき仕事が変わりつつあります。競合他社も含めて、どの企業もAIをどう組み込んでいくかを考えています。そのような市場環境の中で、ただ人員削減してAIで効率性を上げていくだけでなく、プラスアルファで何を伸ばさなければならないかにフォーカスし、そこに必要な人材をしっかり集めていくことが、組織設計の入り口になります」(山本)

続いて福田氏は、採用コストとAI投資コストのバランスという経営上の重要なテーマについて意見を求め、これに対して堺氏は、AIの限界を指摘しました。

「AIは結局マシンであって、生物ではありません。いかに感情を持っているように話しても、実際には何も思っていません。一方で、現実世界は無限のアナログの世界。『これをやりたい』という意志、『この問題を解決したい』という思い、人に共感する感性、人を巻き込んでいくリーダーシップ力などは人間ならではの要素です。このような、人間にしかできない部分のために人間を採用していくことが重要です」(堺氏)

山本も「適切な世界への解像度を持って主観を持ち込んでいくことが人間の強さ」だと語ります。

「このお話を聞いて、昨年のzeroONEでのデジタル庁樫田さんとのセッションを思い出しました。例えば自然界のものに対して『名前をつける』ことによって境界が生まれ、人間の主観が反映されます。適切な世界の解像度を持ちながら、適切に主観を持ち込んでいくことが、人間の強さや面白さだと思っています。AIを活用して客観的に判断できる部分を平準化していけば、より人間が持つ主観に集中できますし、そこに価値が宿ります」(山本)

この考えに対し、福田氏は「主観や種火となる意見がないといけないとなると、“自分探し”から始めていく必要があるのかもしれない」と反応。そこに堺氏が付け加えます。

「私自身も一度、自分探しに戻りました。AI時代が本当に進んでいくと、ベーシックインカムの世界になっていくかもしれません。そうなると、人は『何のために働くのか』『働くのであれば何をしたいのか』など、自分の思いやWillを改めて確認することが必要になるのです」(堺氏)

AI-Readyな環境と人材育成環境の整備が急務

セッションの終盤、AI活用を成功させるための環境整備についての議論へと移りました。山本は、守りの体制強化の重要性を強調。

「AIが働きやすい環境、AIを安全に人間が使用できる環境の整備が重要であることを、多くの企業が気づき始めています。セキュリティリスクの低減のためにも、ルールを整理し、仕組みとして担保していく必要があるでしょう。そうしなければ、エンタープライズにおいては『AIを使用し続けるのは危険だ』ということで、社内に閉じた限定的なAIしか使用できない状況になってしまいます。ルールを決めるということは、許容できるリスクを見極め、そのリスクを取る判断をすることと同義です。AIに任せたものは誰も責任が取れないので、人間ができることはリスクを取ること、ともいえるでしょう。」(山本)

堺氏は、人材の重要性を打ち出します。

「BPRを考える人材も必要ですし、生成AIを活用していける人材も必要です。その人材が活躍するためにも、しっかりしたAI基盤とデータ基盤が必要なのです。また、採用だけではなく、育成も大事です。AIが民主化するということは、技術的な素養のない人でもAIを開発したり活用したりできることを指します。ですから、AIを使える人を採用するだけでなく、既存の社員がどんどん生成AIのスキルアップしていく環境づくりも大切なのです」(堺氏)

育成面での強化事例として、堺氏はアクセンチュアの新入社員トレーニングを紹介しました。

「アクセンチュアでは、新入社員が受ける2ヶ月程度のプログラミングのトレーニングに、AIのコーチをつけるようになりました。すると、それまで2ヶ月かけて習熟度70%程度まで上がっていく学習曲線が、わずか2週間で70%まで伸びるようになったのです。AIなので、わからないことがあればいつでもすぐに質問できることが功を奏し、同じトレーニング内容でも期間が短縮する効果が出た恰好です」(堺氏)

最後に両氏は、企業が明日からできる第一歩を語り、セッションを締めくくりました。

「ホワイトカラーの仕事が、デスクワークからフィールドワークにシフトしていくと考えています。様々な調査やまとめといったデスクワークは生成AIが実施してくれるようになるので、それよりは一人ひとりがその会社におけるフィールドに出て行き、現場で課題をつかむ。様々なステークホルダーの方と対話する。そこに価値が戻っていくと考えています。つまり、フィジカル的な部分が非常に大事になります」(堺氏)

「現場に出る、お客様と話すといったことの価値は、改めて見直されています。AIを経営に適用していくことを考えると、まずは経営者がAIにディープダイブしていく、使い倒していくことが求められます。ある意味、経営者が社内で一番AIに詳しいと言えるくらいの状態でないと、AI活用の的確な戦略は出てこないのではないでしょうか。経営層の皆様には、ぜひそのレベルまで踏み込んでいただけますと、より全社でのAI活用が進むのではないかと考えています」(山本)

北川佳奈

TROCCO®ブログの記事ライター